私たちは今、インターネットを通じて、あらゆる情報にアクセスできる時代に生きています。しかし、情報が多ければ多いほど、私たちは本質を見失いがちです。本当に知りたいのは、誰でも書けるような情報ではなく、幾多の修羅場を乗り越えてきた経験に裏打ちされた、“本物の言葉”ではないでしょうか。
今回、私たちは、大規模修繕業界で“レジェンド”と称される一人の専門家への独占インタビューの機会を得ました。
山田 太郎 氏(仮名)。一級建築士・マンション管理士。 大手ゼネコンで現場監督としてキャリアをスタートし、その後、修繕専門会社で技術部長を歴任。現在は、当社の技術顧問として、数多くの難易度の高いプロジェクトを成功に導いています。彼がこの道25年で携わった大規模修繕は、実に300棟以上。その経験から紡ぎ出される言葉は、時に厳しく、しかし常に真実を射抜いています。
成功する管理組合の共通点とは何か。最新技術は本当に有効なのか。そして、これからの大規模修繕はどう変わっていくのか。
業界の過去、現在、未来を知る男の、珠玉の言葉に耳を傾けてみましょう。
第1章:成功する管理組合、失敗する管理組合 ~25年の経験で見てきた、決定的な“差”とは~
インタビュアー: 本日はお忙しい中ありがとうございます。山田さんはこれまで300棟以上の大規模修繕に携わってこられたとのこと、まさに生き字引のような存在ですね。早速ですが、単刀直入にお伺いします。多くの現場を見てこられて、成功する管理組合と、残念ながら失敗してしまう管理組合、その差はどこにあるのでしょうか?
山田氏: ご挨拶代わりに、核心を突く質問ですね(笑)。結論から言えば、その差は『他人任せにしない主体性』、この一言に尽きます。驚くかもしれませんが、工事の品質そのものよりも、そこに至るまでの「準備プロセス」で、成否の9割は決まっているんですよ。
インタビュアー: 準備プロセス、ですか。
山田氏: ええ。成功する組合さんは、とにかく準備に時間をかける。特に、①理事会や修繕委員会内での徹底した議論、②自分たちのマンションの現状把握(劣化診断書の読み込み)、③業者選定における多角的な比較検討。この3つを、焦らず、じっくりと、自分たちの頭で考えている。業者を単なる「下請け」としてではなく、共にプロジェクトを成功させる「パートナー」としてリスペクトを持って接することができるのも、自分たちの中に確固たる「軸」があるからです。
逆に、失敗する典型的なパターンは、管理会社に言われるがままに1社に決めてしまったり、「よく分からないから」と業者に丸投げしてしまったりするケース。あるいは、複数の見積もりを取っても、表面的な金額の安さだけで判断してしまう。こういう組合さんは、後になって「話が違う」「こんなはずではなかった」と、ほぼ確実にトラブルになります。業者の言いなりになるのではなく、業者を使いこなし、導いていくくらいの気概。それがあるかどうかが、大きな分水嶺ですね。
第2章:業者選びの“本質” ~見積書の数字の裏に、何を見るべきか~
インタビュアー: 「業者選び」が重要だということは、皆さん理解されていると思います。それでも失敗が後を絶たない。山田さんがもし、今まさに業者を選んでいる理事だとしたら、何を最も重視しますか?
山田氏: 面白い質問ですね。私が理事なら、見積書の安さなんて最後の最後にしか見ません。最重要視するのは、以下の3つの「力」です。
一つ目は『診断力』。提出された建物劣化診断報告書を見れば、その会社のレベルは一目瞭然です。ただ「ひび割れがあります」と報告するだけの会社は三流。なぜそのひび割れが起きたのか、構造的な問題なのか、経年劣化なのか、その原因まで踏み込んで分析し、根本的な解決策を提示できる会社は一流です。
二つ目は『提案力』。診断結果に基づいて、ただ劣化した部分を元に戻すだけの提案しかできない会社は、プロとは言えません。「この立地なら、塩害に強いこの塗料を使いましょう」「この際、国の補助金を使って窓を断熱化すれば、資産価値も光熱費も改善できますよ」といった、プラスアルファの付加価値提案(VE提案)があるか。管理組合の財産を、未来に向けてどう最大化できるかを考えてくれるか、その姿勢を見ますね。
そして三つ目、これが最も重要かもしれませんが、『担当者の人間力』です。大規模修繕は、数ヶ月にわたる長いお付き合いです。質問に対して誠実に、分かりやすく答えてくれるか。こちらの不安に寄り添ってくれるか。そして何より、その仕事に情熱と誇りを持っているか。結局、最後の決め手は「この人になら、大切な我が家を任せられる」という、理屈を超えた信頼感なんですよ。
第3章:最新技術の“真実” ~ドローン、AI、新素材は本当に有効か~
インタビュアー: 近年、大規模修繕の世界でも、ドローンやAIといったIT技術、あるいは新素材の活用が進んでいると聞きます。現場のプロとして、これらの最新技術をどう評価されていますか?
山田氏: 素晴らしい質問です。ここは、正しく理解していただきたい重要なポイントですね。まず、ドローンや赤外線カメラによる建物診断。これは、間違いなく「革命」です。従来、ゴンドラや足場をかけなければ分からなかった高層階の外壁タイルの浮きや、目視では発見できない微細な雨漏りの兆候などを、安全かつ短期間、低コストで把握できるようになった。診断の精度と客観性は、10年前とは比較になりません。AIによる画像解析で、ひび割れの数を自動でカウントする技術も、診断のスピードアップに大きく貢献しています。
インタビュアー: では、もう人の目や手は必要なくなるのでしょうか?
山田氏: いや、それこそが最大の誤解です。ドローンやAIは、あくまで「初期診断における、非常に優秀な人間の“目”の代わり」に過ぎません。例えば、赤外線カメラが「ここに温度異常がある」と示しても、それが本当に漏水なのか、単なる結露なのか、あるいは内部の断熱材の問題なのかを最終的に判断するのは、経験を積んだ人間の知識です。タイルの浮きが疑われる箇所を、最後は必ず打診ハンマーで叩いて、その音を聞き分ける「手と耳」による確認が不可欠。技術のデータと、人間の五感を組み合わせる「ハイブリッド診断」。これこそが、現代における最高の診断方法であり、技術に溺れず、人と技術のベストミックスを提案できる業者こそが本物です。
インタビュアー: 材料、マテリアルの面ではいかがでしょうか。何か注目すべき新技術はありますか?
山田氏: こちらも目覚ましい進化を遂げています。特に注目しているのは2つ。 1つは、もはやスタンダードになりつつある『遮熱・断熱塗料』です。屋根や外壁に塗装するだけで、夏場の室内温度上昇を抑え、冬は室内の熱を逃がしにくくする。居住者の光熱費削減に直接貢献するため、非常に費用対効果が高い。国の補助金制度も充実しており、大規模修繕のタイミングで導入を検討しない手はありません。
もう1つは、シーリング材の進化、いわゆる『超長寿命化シーリング』です。外壁のパネルの継ぎ目や窓廻りに使われるシーリング材は、従来10年程度で劣化し、これが修繕周期の一つの目安になっていました。しかし最近では、特殊な技術で20年、あるいは30年近い耐久性を持つ製品が出てきています。これは、マンションの修繕サイクルそのものを、12年から20年近くまで延ばせる可能性を秘めているということです。目先のコストは少し上がりますが、LCC(ライフサイクルコスト)の観点から見れば、将来の修繕費用を大幅に削減できる、まさにゲームチェンジャーとなりうる技術だと考えています。
第4章:未来の大規模修繕 ~業界が、そして管理組合が備えるべきこと~
インタビュアー: 最後に、業界の未来についてお伺いします。建設業界は、深刻な人手不足や資材価格の高騰など、厳しい課題に直面しています。そんな時代に、管理組合の皆様は、何を心構えとして持っておくべきでしょうか。
山田氏: おっしゃる通り、我々を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。職人の高齢化は深刻で、材料費も下がる見込みは薄い。だからこそ、管理組合の皆様には、これまで以上に「計画性」と「先見性」が求められます。
まず、お手元にある長期修繕計画書。これを「聖書」のように信じてはいけません。5年、10年前に作られた計画は、もはや今の社会情勢や技術革新のスピードに追いついていない。最低でも5年に一度は、専門家を交えて計画を全面的に見直し、より精密で、現実的なものにアップデートしていく必要があります。資金計画も、これまで以上にシビアに、長期的な視点で見直すべきです。
そしてもう一つ。これからの大規模修繕は、単に古くなったものを元に戻す『修繕』の時代から、社会の変化に対応して建物の価値を高める『改修(アップグレード)』の時代へと、完全にシフトしていきます。今回お話しした省エネ技術の導入はもちろんのこと、例えばEV(電気自動車)充電設備の設置、防災備蓄倉庫の増設、非接触型のエントランスシステムの導入など、時代のニーズに応える投資を、大規模修繕の機会に計画的に実施していく。
変化に対応し、自ら価値を高めていく意志のあるマンションだけが、この厳しい時代でも、その資産価値を維持し、向上させることができる。私はそう確信しています。
インタビュアー: 技術は進化しても、それをどう活かすかという人間の計画性や主体性が、結局は最も重要だということですね。本日は、本当に貴重なお話をありがとうございました。
まとめ:インタビュアー所感
山田氏との対話を通じて見えてきたのは、未来の大規模修繕を成功に導く、一つの普遍的な真理だった。 それは、ドローンや新素材といった華々しい「最新技術」も、それを正しく評価し、使いこなす「人間の知見」がなければ意味をなさないということ。そして、その知見の土台となるのは、現場で培われた揺るぎない「経験」と、顧客の資産を預かるという真摯な「責任感」であるということだ。
技術はあくまで、手段。目的は、そこに住む人々の暮らしと資産を、未来永劫守り抜くこと。 山田氏の力強い眼差しと、時折見せる柔和な笑顔の中に、私たちは、業界の未来を照らす確かな光を見た気がした。
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